『やってみなわからん!』-私の体験-

No.28 第9章 知財

投稿日:2011/06/27 投稿者:大西秀憲
知的所有権、いわゆる「知財」に関しては起業当初から非常に重要視しており、常に意識して取組んできた。
ベンチャー企業の多くは当然「知財」には熱心に取組んでいると思う。
基礎研究型の企業は云うに及ばず、弊社のような応用開発型の企業に於いても、知財は命運を左右するものだ。
私は幸運なことに「品岡さん」と云う、知財に関するブレーンを持っている。
・・・悔やまれるのは、「あと10年早く知り合っていたら」と思うことだ。
知財に関することなら何でも相談してアドバイスを受けることができるので心強いかぎりである。
(当然、知財は「弁理士」の仕事である事は充分に分かっている)
しかし、そこに至るまでに(弊社の事情を熟知した上で)親身になって相談できるので品岡さんは貴重である。
知財戦略は企業の「極秘」に当たる事なので具体的な記述はできないが、差障りのない範囲で体験を書く。
1.知財の重要性
「知財は重要である」と人は云う。 しかし「その人」は本当に身を以って重要性を体験したのだろうか?
私は幸か不幸か、自分自身で「特許審判(裁判)」を体験した。
従って、一般の人よりは遥かに、知財の重要性を認識していると思っている。
特許係争は最終的には裁判で決着を付けるしかなく、「勝つか、負けるか」しかない。
そして実に多くの「時間と費用」が発生する。
私は、この貴重な体験を得てから、改めて「知財」は重要だと思っている。
2.知財への課題
私はサラリーマン時代に2件の特許を書いたことがある。 経験と云えばただそれだけであった。
(それは会社から書けと云われて書いたのではなく、自らの意思で書いたものである)
その時には全く分からなかったが、普段は絶対に使わない「独特の言い回し」があることが頭に残っている程度だ。
テクノスジャパンを創業してから、見よう見まねで多くの特許と実案を書いて出願した。
その時も、特許の本質は全然分かっていなかった。
ごく最近になって、特許の本質が分かってきた。
それは、特許は「技術ではなく法文である」と云うことである。要は、発明技術を文章で書いているのである。
従って、詳細な技術やエキス部分は文章では書けない。
文章は「文系人間」が得意であるが、しかし「文系社員」では特許は書けない。
では、誰が書くのか?・・・結局は開発者=(多くのベンチャーでは)社長しか書けないのである!
(小零細&ベンチャー企業において、独創技術・製品を誰が考えるのか?を見れば明らかである)
また、基本特許と周辺特許そして管理としての特許MAP、これらを総合的に見るのは非常に重要である。
本当に推進しようとすれば「専任者が必要」である。
しかし、ベンチャーや小零細企業には財政的な余裕と人材がいないのである。
重要性は分かっているのに、現実を見れば他に優先課題が山積しているので「先送り」になる。
・・・かくして、益々大企業との格差が広がる。
以上の忸怩たる思いは、多くの小・零細企業経営者が持っているのではないか?
3.知財への支障
創業社長は「製品の発想」、「研究開発・試作」、「製品化」、「PR」、「販売チャンネル構築」、「展示会」を始め
「プレスリリース」、「取扱説明書作成」、「カタログの作成」、そして「特許出願書類作成」まで、長大な範囲をほぼ
一人でしなければならないのが実体である。
なぜなら、技術ベンチャー系企業は当初極めて少ない人数(極端な場合は社長1人)での起業が多い。
また、多くの場合、社長の「独創」で開発するため、社長以外は誰も内容が分からないのが普通である。
例えば、カタログを作るにしても、誰も製品の詳細を知らないから結局社長が作るしかないのである。
当然ながら「特許」に関しても、内容を誰も知らないから「社長しか書けない」のである。
社員に概要を「チョコチョコ」と説明した程度では、特許を書けと云っても「絶対に書けない」のである。
結局は社長が全てをやらなければならなくなる。
これ以外に社長は経営をしなければならない。
社員の採用、給与・賞与、経理・資金調達、全ての範囲を理解し把握していなければならない。
・・・大企業のエリートが到達する「サラリーマン社長」とは全く異なる。
4.神業
このように、新規起業した社長(と呼べるか?)は労働なんて生易しいものではない!ほとんど「神業」である。
そんなことが1人で出来るのだろうか?と思われるかも知れない・・・
・・・それが、やればできるのである!
(現在、名立たる会社も、創業者がほとんど全てを一人でやった結果だ)
余談だが、私は初めて就職試験を受けるときの面接で「尊敬する人は誰か?」と聞かれて、直ちに答えた。
それは「早川徳次さん」である。
念のため簡単に説明すると、早川さんは「後のシャープ(当初は早川電機)」の創業者である。
そして「シャープペンの発明者」、ベルトの「バックルの発明者」としても知られる偉大な人物である!
彼は「日本初」と呼ばれるものを実に多く創造した。
・・・要するに現在大企業と云われる会社も、創業者は一人で全てを自分でやったのである。
もし、「マルチタスク同時進行」で全てが出来なければ「その会社は消えて無くなる」だけだ!
(要は「志し」の問題であり、それが希薄か、一貫しないものであれば、最初から起業など「止めておく」方がよい)
創業社長の発想で「類稀な特許」を取得すれば、その会社の未来は輝くものになる!
5.支援
知財に関しては多くの「公的支援制度」がある。
例えば、特許の事前調査支援、審査請求支援、出願費用支援、等々である。
また「特許アドバイザー」の支援を受けることもできる。
上記の支援は、国、県、市、の様々な制度が用意されているのでぜひ活用すべきである。
費用に関して云えば、知財には相当な金がかかると思っていなければならない。
それは「弁理士費用」と「登録および維持の納付金」が件数が増えると大きな負担となる。
特許出願すると、多くの場合「拒絶通知」が来る。
これに対して「意見書」を書いて(または補正をして)期限内に出さねばならない。
・・・これは素人には無理で、弁理士に依頼せねばならない。・・・この費用が大きい。
一度でもやったことがある人は上記のことが分かると思うが、実に面倒で金がかかることなのである。
しかし、肝心なのは時間や金の問題ではない!
いくら支援制度が充実していても、結局は「発明当事者=(多くの場合)社長」が「詰め」をすることになる。
・・・「後は任せるから適切に処理をしておけ!」と社員に投げるだけでは済まない。
知財も、人任せでは絶対にだめなのである!
第9章 完

モノづくりの原点…それは「人と社会を結ぶ応用技術」

応用技術で暮らしを支えるモノづくりを。
応用技術で暮らしを支えるモノづくりを。
応用技術で暮らしを支えるモノづくりを。
応用技術で暮らしを支えるモノづくりを。