No.11 第3章 開発
投稿日:2010/01/25
前号ではMCTOSの試作とプレスリリースについて書いたが、ここでは加速した開発と製品について書く。
入院したことは不幸であるが、マイナス面だけではなく良いこともある。
実は入院中に6人部屋の面々を観察していて「新製品」を思いついた。
私の対面に20代後半の男性が入院していたが、彼は首の骨を損傷していて身動き一つできない状態だった。
身体も頭も首も「金属ハーネス」で完全に固定されて、30度程ベッドを起こした状態で、顔だけが見えた。
もちろん、手も指もギブスで固定されているので全く動かすことができないが、顔の表情はあった。
ある時、彼が私を見ていることに気が付いたが、それは何かを伝えたい様子であった。
たぶん「ナース」を呼んでほしいのだと、私は思い、尋ねたら「彼は顔の表情で」そうだと、答えた。
彼はナースに来て欲しくても「ナースコール スイッチ」が押せなかったのであった。
それからは私が彼の要求を汲んで「スイッチを押す」ようになった。
このような経験を元に、退院後早速開発を始めたのが「話すコール」という製品である。
これは、「ナースを呼ぶ機能」と「ナースに音声で応答する機能」を合わせ持つ製品である。
押しボタンスイッチが押せない患者さんを対象としたため、極めて微弱な力と少しの動きで働くスイッチを採用した。
ナースコールするとナースは名前を聞いてくるので「自分の名前」を発声しなければならない。
ところが、声を出すことができない人は、無言である。・・・大部屋はナースコールが共通。
入院患者をよく観察していると「発声」はほとんど共通点が多い。
それは、①点滴が終わった。 ②大小便。 ③体位変換。 ④痛い。 などである。
そこで、これらの言葉を音声で発声する機能が「話すコール」である。
これは沢山売れるだろう!と期待したが、全く売れなかった。
今から思えば売れないのは当然であった。
会社を創業して約5年、この頃は「実に考えが甘かった」と反省している。
世の中に無い製品を開発して記者発表し、メディアで広報されれば「沢山売れる!」と、本当に思っていた。
現実は全く売れない。
それから数年してやっと気が付いた(分かった)のである。
それは「メディアが騒ぐのとビジネスは無関係だ」と云うことである。
多くの人が勘違いすることなので、ここで敢えて書いた。
冷静に考えれば当たり前のことで、メディアは話題の情報発信、売るのは企業の地道な努力だけである。
従って、記者発表はこれを弁えてしなければ、報道が乱舞すると舞い上がって錯覚して命取りになる!
年月と多くの資金を投入したが「物の本質」を会得、体験したことは以後の得がたい財産であった。
「イエスノン」と云う製品も作った。
これは、声が出ない患者さんが看護者等の質問に「イエス」・「ノー」の音声で答えて、意思伝達する製品である。
最初は指でスイッチを押す方式だったが、段々進化して「生体信号」で操作するようになっていた。
最も単純な「意思伝達器」として開発したが、これも全く売れなかった。
要するに「売る努力」をしなかったのである。
そして「徘徊ノン」を作った。
この製品をきっかけとして私の開発は、段々と現実製品に迫って行くのである。
以下、次号で書く。