No.72 どこにいった?きっちり山の吉五郎
投稿日:2006/01/17
「きっちり山の吉五郎」と云う言葉があった。
とにかく馬鹿が付くほど「正直」で、曲がったことは絶対にしない人の呼び名である。
何事も定規をあてたように正確に処理し、しかも間違いが全く無い。
人が見ていようが、見ていまいが、人が居ようが居まいが、真っ正直に生きている。
仕事は完全主義で完璧にこなし、自分の分限をよくわきまえている。
そして、自分の仕事に誇りを持ち、金儲け話などには目もくれない。
このように「仕事をきっちりして」悪いことなど絶対にしない人を「吉五郎」と呼んだ。
このような「吉五郎」さんが平均的な日本人として多く居たのである。
これが世界に冠たる技術立国と経済大国を作り上げた要因であり原動力であった。
日本人の最大の特性(又は特長)は「正直」である。
「道でお金を拾いました」と云って、警察に届ける人間が住んでいるのは日本だけだ!
今でも、「財布ごと」あるいは「バッグごと」拾って届ける人が多い。
これは人が見ていようが、見ていまいが同じことをするのである。
世界の常識で見ると、こんな不思議な話は無い。
もし彼らに、日本人が金を届け出る話をすると、「おまえ馬鹿か!」と云うだろう。
要するに、日本人は「馬鹿正直」が最大の特性であったのだ。
そんなことない!と反論する人も居るかもしれない。
しかし、駅のホームに荷物を置いて、そこを離れる人は実に多い。
この場合でも、戻ってみれば、ちゃんと荷物は「元の場所」にある。
しかも、中を開けて物色した様子は無い。
(一歩海外に出たら、足元に置いているバッグでも、無くなる)
これが現在も続くのは「きっちり山の吉五郎」の名残であると思う。
この事は案外日本人は気が付いていないが、世界に誇るべき日本人の特性である。
「棒杭商法」と云うのがあった。
江戸時代の話で米沢藩の「上杉鷹山」の話にも出てくる。
売りたいものを並べて、その横に棒状の杭を打ち、その杭にザルをぶら下げておく。
買いたい人は、そのザルにお金を入れて、商品を持っていくのである。
商品だけを持っていく人は居ないし、お金を持っていく人もいなかった。
「それは昔の事じゃないか!」と云うかもしれない。
しかし、棒杭商法は現在も続いているのである。
道端に「無人販売所」と云うのがある。
地方都市の郊外では至る所にあり「野菜など」そこで採れたものを売っている。
しかし、名前の通り「無人」である。
ザルは見たことないが、空き缶や箱が置いてあり、そこにお金を入れるのである。
お釣りが必要な場合は、そこからちゃんとお釣りだけを取る。
経営者(?)に聞くと、ほとんど商品と売上金額の差異がないそうである。
正に世界に誇るべき商売と道徳である。
ビジネスの世界でも同じである。
所定の金額より多くのお金を受取った場合、必ず相手にそれを告げて返金する。
それは、銀行振込みに限らず現金の場合も同じで、受取りが多いと返金する。
現金の場合など、何の証拠も無いにもかかわらずである。
これは日本だけの実に不思議で特異なことである。
以上が現在も続くのは「きっちり山の吉五郎」の名残である。
私は「きっちり山の吉五郎」は人間として最高の姿だと誇るべきと思う。
ところが、最近これを「ぶち壊す」出来事が2つあった。
実に嘆かわしい出来事であり、さらりと受け流す訳にはいかないと思う。
一つは「構造計算偽造事件」、所謂「耐震偽装」である。
単に計算を誤魔化したと云う単純な話ではない。
「そこまではやらないだろう」との常識を見事に打ち破ったのである!
「部屋の内装材を誤魔化した」のとは訳が違う。
建物の倒壊に繋がる最大悪質かつ深刻な事件である。
「安くしろと云われて削った」としゃあしゃあと云ってのける人間が出てきたのだ。
天井のクロスを1ランク下げて施工したのと訳が違う!
大きな地震がくると倒壊するだろうと設計した人間が平気で言ったのである。
事件とか詐欺とかの話ではない。
日本人はついにここまでダメになったか!ということを象徴する出来事である。
ここには「正直のかけら」も無い。
「吉五郎」は例え殺されるとしても、絶対にこんなことはしない。
もう一つは「株取引」に関する出来事である。
新しく市場に売出す株を間違って「1円」で売り出したのである。
これに狂ったように人々は貪りついた。
かの証券会社が気が付くまでに、すでに多くの取引が成立していたのである。
これによって、かの証券会社は「約300億円」の損害を出したという。
有名な投資会社も莫大な利益を上げ、個人でも20億円を瞬時に稼いだ人がいる。
特にネット取引をしている人に瞬時に情報が流れたらしい。
この騒動では多くの人が「濡れ手で泡」の如く、莫大な儲けを上げた。
1円は誰が見ても明らかな間違いで、ネットに情報を流すなら、間違いを指摘すべきだ。
ところが、「それ!今のうちに買え!」とばかり、買いまくった。
もちろん、法的には問題はない。
しかし、法に触れなければ、何をしても良いのか?
株の世界で生きる同類として指摘してやるのが正直と云うものであろう。
「吉五郎」は儲け話に絶対のらないし、100%儲かると判っても絶対に買わない。
色々御託を並べる「有名投資会社」の正体(本質)は所詮、こんなものである!
安易なマネーゲームは国民の精神構造を堕落させ、ついには国を滅ぼす。
以上2つの実例は「きっちり山の吉五郎」を見事に葬り去るだろう。
なぜなら週刊誌を見れば判る、「瞬時に金を稼いだ英雄」として、彼は扱われている。
曰く、(サラリーマンが一生で稼ぐ、その20倍を瞬時に稼いだ男!)
金さえ掴めば、何をしても良いのか?
海外では少しでも油断していると騙されたり、根こそぎ持っていかれる国が実に多い。
日本がそうならなかったのは、「きっちり山の吉五郎」が居たからである。
しかし、ここで話した2つの出来事が、「堰を切ったように」吉五郎を葬る。
大げさに云えば、弥生時代以来営々
として築いてきた日本人の精神構造を解体する!
日本人(日本)は、マネーゲームに向かない。
(全く資源を持たない日本は)技術と高品質の製品で生きていくしかないのである!
そこで必要なのは「きっちり山の吉五郎さん」である。